VINXニューリテール・コラム
【小売業のDXシリーズ】クラウド移行の落とし穴と最適化のポイント
はじめに
近年、流通小売業ではDXの推進とともに、システムのクラウド化が急速に進んでいます。特にEC市場の拡大や消費行動の変化によって、「変化に強いシステム基盤」を求める企業が増えており、オンプレミスからクラウドへの移行、いわゆる“クラウドリフト”が活発化しています。
一方で、クラウドに移行すれば「自動的にコストが下がる」「環境を最新化できる」と考えていたものの、実際には想定以上の費用が発生したり、運用が複雑化したりするケースも少なくありません。
今回は、流通小売業におけるクラウドリフトの現状と、そこで起こりがちな問題、さらに失敗しないためのポイントについて解説していきます。
元動画:「クラウド移行の盲点」(小売業のDX40)の動画を見る
クラウドリフトが進む流通小売業
■クラウドリフトの現状
出典:Verison business Cloud Security Guide、他 / Infosys Cobalt Cloud Reader – CPG and Retail Industry Report、他
現在、システムのクラウド化は世界的に加速しています。資料によると、世界的にはすでに約68%のシステムがクラウド環境で稼働しているとされており、流通小売業はそのなかでもクラウド化が進んでいる業界です。
なぜ、流通小売業ではクラウド化が進んでいるのでしょうか。その理由のひとつが、変化への対応スピードです。例えば小売業では近年、ECやモバイルアプリ、キャッシュレス決済、AI需要予測など、新しいサービスとの連携も次々と求められるようになっています。
従来のオンプレミス環境では、サーバーを自社で保有し、数年単位で運用することが一般的でした。しかし現在の小売業では、「5年間変わらないシステム」を前提にしていては、ビジネスの変化に追いつけません。その点、クラウドは必要に応じて機能追加や性能変更がしやすく、変化への柔軟性に優れています。
特にECとの相性は非常に良く、セール時だけアクセスが急増するといったケースにも柔軟に対応できます。例えば、実店舗で「土日だけレジを増やす」といった対応を行うように、クラウドでもアクセスが増えたときだけサーバー性能を自動的に上げることができます。これを「オートスケール」と呼びます。
クラウドリフトで生じやすい問題
クラウド移行にはメリットがある一方で、オンプレミスのシステムをそのままクラウドへ移行すると、さまざまな問題が発生します。特に多いのが、必要以上に高額な契約をしてしまうケースです。
クラウドでは、CPUやメモリ、ストレージなどを組み合わせて利用します。
ここで、少し用語を整理してみます。まず「CPU」とは、システムの“頭脳”のようなものです。データ処理や計算を行う中枢部分で、人間でいえば“考える役割”を担っています。そして「コア」は、そのCPUの中で実際に処理を行う作業者のような存在です。
例えば、「4コア → 作業者4人」「16コア → 作業者16人」というイメージです。当然、人数が多いほど処理能力は高くなりますが、その分コストも上がります。
「メモリ」は“作業机”のようなものです。机が広ければ、一度に多くの資料を広げられるので処理が速くなります。一方で必要以上に大きな机を用意すると、無駄なコストが発生します。
クラウドでは、このCPUやメモリの組み合わせによって料金が変わります。例えば、オンプレミスでは8コアで十分だったシステムでも、クラウド側の仕様によって、メモリを増やした結果、16コアの契約が必要になるケースがあります。つまり、実際には使っていない性能にまでお金を払っている状態になってしまうのです。
また、ストレージでも同じような問題があります。クラウドでは、データ保存容量だけでなく、“読み書き速度”によって料金が変わることがあります。例えば、高速道路で例えるなら、「容量 → 駐車場の広さ」「帯域 → 道路の広さ」のようなイメージです。道路を広くしたいだけなのに、駐車場まで何倍も広げなければならないケースがあるのです。
このほかにも、「重要度の低いデータまで高額ストレージに保存している」「データベース内にバックアップを置いている」「キャッシュ機能を活用できていない」「オートスケールを使っていない」といったケースは非常に多く見られます。
特に流通小売業はデータ量が多いため、こうした“少しの無駄”が積み重なると、年間数百万円規模のコストの差が生じることも珍しくありません。
クラウド活用で重要になる対処と注意点
では、こうした問題を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。最も重要なのは、「システムの使われ方を正しく把握すること」です。クラウドでは、“どこに負荷が集中しているのか”を見える化し、それに合わせて最適化することが重要になります。
ここで重要になるのが「チューニング」です。チューニングとは、システムを“より効率良く動くように調整すること”です。例えば自動車でも、「タイヤの空気圧」「エンジンの状態」「オイル交換」などを適切に調整すると燃費が良くなります。
システムも同じで、不要な処理を見直したり、負荷の高い部分を改善したりすることで、性能改善やコスト削減につながります。
ただし、ここで重要なのは“やり過ぎないこと”です。細かく調整すればするほど性能は上がりますが、その分、人件費や作業時間も増えます。つまり重要なのは、「どこまでやれば費用対効果が高いか」を見極めることです。
特に有効なのが、データベースの“見える化”です。例えば、CPU使用率が極端に高いSQL処理だけを重点的に改善することで、大幅なコスト削減につながるケースがあります。
また最近では、Oracle CloudやAzureなどで、「仮想CPU機能」も提供されています。これは簡単に言うと、「契約上は大きなサーバーを使いながら、ライセンス料金だけ抑える仕組み」です。クラウド各社も、こうしたコスト最適化機能を日々アップデートしているため、最新情報を継続的に収集することが重要になります。
さらに、データベースやストレージは使い続けるほど“散らかって”いきます。部屋でも整理整頓しないと物が増えて使いづらくなるのと一緒です。そのため、「不要データの整理」「定期メンテナンス」「ストレージ最適化」などを継続的に行うことが、クラウドのコスト削減には欠かせません。
おわりに
現在、流通小売業ではAI活用が急速に広がっており、その基盤としてクラウドの重要性がますます高まっています。高い拡張性と柔軟性を備えたクラウド環境は、膨大なデータを処理するAIとの相性が非常に良いとされているのです。
その反面、十分な検討を行わないままクラウドへ移行すると、想定以上のコスト増加や運用負荷の発生につながることもあります。だからこそ、クラウド移行を単なるインフラの更新として捉えるのではなく、自社システムの利用状況や負荷のかかり方を見直す機会として活用することが重要です。
この記事が、自社に最適なクラウド活用のあり方を考え、AI時代を見据えたDXを推進するきっかけとなれば幸いです。
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