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【小売業のDXシリーズ】日本のAI活用状況と海外の最新事例

【小売業のDXシリーズ】日本のAI活用状況と海外の最新事例

はじめに

近年、生成AIの進化は目覚ましく、あらゆる産業で活用が進んでいます。流通小売業においても、業務効率化にとどまらず、顧客体験そのものを変革する存在として注目されています。

一方で、日本企業におけるAI活用は、海外と比較するとまだ発展途上にあるのが実情です。技術そのものは広く認知されているものの、「どのように活用すべきか」という具体的なイメージが持てていない企業も少なくないようです。

このコラムでは、日本と海外のAI活用状況をご紹介し、日本で活用が進まない背景について紐解きます。そのうえで、アメリカの先進事例をもとに、今後のAI活用の方向性について考察していきます。



元動画:「流通小売業の生成AI活用事例(小売業のDX38)」の動画を見る

世界から見た日本のAI活用状況



▶出典・左図:Human-Centered Artificial Intelligence「2024 Global AI Vibrancy Ranking (Absolute)」
▶出典・右図:総務省_情報通信白書令和7年版より

 

まず、世界におけるAIの研究開発や活用状況を調査した上の2つのランキングを見ると、日本は決して上位に位置しているとは言えません。AIの活用力や研究力の観点では、アメリカや中国、イギリスなどが長年リードしており、日本は10位前後にとどまっています。



▶出典:左図:総務省(2025)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」 図表Ⅰ-1-2-14
▶出典:右図:総務省(2025)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」 図表Ⅰ-1-2-12

 

また、企業における生成AIの利用率にも大きな差が見られます。日本では業務で生成AIを活用している企業の割合が約55%にとどまるのに対し、アメリカやドイツ、中国では9割以上の企業がなんらかの形で活用しています。

「生成AIの活用方針」も大きく異なっています。日本では「積極的に活用」と「領域を限定し活用」を合わせても約5割にとどまり、「明確に方針を定めていない」が約3割を占めます。一方、アメリカやドイツでは「積極活用」および「限定活用」の割合が8割前後に達しており、多くの企業が活用方針を明確に打ち出している状況です。

特に中国では、「積極的に活用」とする割合が約半数に達しており、AI活用を前提として経営が行われていることがうかがえます。これに対し日本は、「明確に定めていない」「わからない」と回答した企業も多く、方針の明確化という点で遅れが見られます。

AI活用が進まない理由


▶出典:左図 総務省(2025)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」図表Ⅰ-1-2-15
▶出典:右図 総務省(2025)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」図表Ⅰ-1-2-16

 

なぜ日本ではAI活用が進まないのでしょうか。調査によると、「効果的な活用方法がわからない」ことが最大の要因となっているようです。日本企業の約3割がこの課題を挙げており、技術そのものよりも“使い方”に対する理解不足が障壁と言えます。

加えて、セキュリティリスクやコストに対する懸念も根強く存在します。特に情報漏えいや著作権といったリスクへの意識が高く、慎重な姿勢が導入のスピードを抑制しています。

一方で、アメリカではすでに活用方法がある程度確立されており、「どう使うか」ではなく「どこまで拡張するか」というフェーズに進んでいます。

また、AIに対する捉え方にも大きな違いがあります。日本では「業務効率化」や「人手不足の解消」といった“守りの活用”が中心であるのに対し、アメリカでは「ビジネス拡大」や「新たな顧客獲得」といった“攻めの活用”が主流となっています。

つまり、日本はAIを“コスト削減の手段”として捉える傾向が強いのに対し、海外は“成長のドライバー”として位置づけているのです。この意識の差が、活用範囲や投資判断にも大きく影響していると考えられます。

海外でのAI活用事例(業務効率化)

ここからは、アメリカの流通小売企業における具体的なAI活用事例を見ていきます。 動画 内で紹介している事例から、2つの取り組みをピックアップしています。


■ウォルマートにおける活用事例

導入目的 ①現場の迷いをゼロに
②150万人の仕事の質を標準化
③接客時間の創出と質向上
④自社AI基盤にて競争力を強化
 
活用例① 使用シーン: 店長による夜間品出しシフト計画

画像は生成AIにて作成

内容: 入荷状況・在庫位置・混雑状況をAIが総合判断/ スタッフへの作業指示をAIが自動優先順位づけ/ シフト計画時間が90分から30分へ(66%削減)
活用例② 使用シーン: 従業員の質問対応  
内容: 「レシートなしの返品は?」等の複雑な質問に マニュアルを読み込んだ生成AIが対話形式で回答
活用例③ 使用シーン: 言語の異なる従業員・顧客とのコミュニケーション

画像は生成AIにて作成

内容: 44言語対応のリアルタイム翻訳(テキスト・音声)/ PB名も正確に訳すようWalmart特有カスタマイズ

 

▶出典: Walmart Unveils New AI-Powered Tools To Empower 1.5 Million Associates

代表的な事例として挙げられるのが、ウォルマートの取り組みです。同社は約150万人の従業員を対象に、AIを活用した業務支援ツールを導入しています。

例えば、店舗運営におけるシフト計画では、入荷状況や在庫、来店予測などをもとにAIが最適な作業順序を提示します。これにより、従来90分かかっていた計画業務が30分に短縮されるなど、大幅な効率化が実現されています。

また、従業員向けの対話型AIも導入されており、複雑な業務ルールや例外対応について、マニュアルを参照しながらリアルタイムで回答を得ることが可能です。これにより、教育コストの削減と業務品質の標準化が進んでいます。

さらに、多言語対応のリアルタイム翻訳機能も実装されており、異なる言語を話す従業員やお客様とのコミュニケーションも円滑に行えるようになっています。

海外でのAI活用事例(新たな顧客体験の創出)

ウォルマートやターゲットでは、ChatGPTと連携した「会話型ショッピング( エージェンティックコマース )」のサービスも開始しています。ユーザーは自然な会話を通じて商品を選び、そのまま購入まで完結できる仕組みです。


■ウォルマート・ターゲットのChatGPTと連携したショピング体験

導入目的 AI主導ショッピング
「話すだけで商品が揃う」未来の買い物体験の構築
 
活用例① 使用シーン: 自然な会話の中で相談しながら商品購入したい

画像は生成AIにて作成

内容: ChatGPT上で欲しいものや用途を伝える、
AIが条件に合うベストな商品を提案、商品選択でそのまま画面内で注文完了

 Walmart と Target の違い

Walmart: 手軽さ重視。単品購入に特化、購入の簡素化と"即断即決”チャット体験を重視
Target: バスケット型買い物体験。複数+生鮮対応+受取方法多様性が特徴
まるで「友達と買い物する」ような体験

▶出典: Walmart Partners with OpenAI to Create AI-First Shopping Experiences
▶出典: Target to Launch First-of-its-Kind Conversational, Curated Shopping Experience in ChatGPT

 

こうした事例から見えてくるのは、AIが「探す」「選ぶ」「決める」という購買プロセス全体を支援し、お買い物体験を大きく変えているということです。

おわりに

今回は、世界と日本のAI活用状況の違いと、その背景にある課題、そして海外の先進事例を紹介しました。

日本企業のAI活用において求められるのは、「どのような価値を生み出すために使うのか」を明確にすることです。企業としてどのような未来を実現したいのか。そのビジョンと結びついた活用こそが、これからの小売DXにおいて重要です。

海外の事例は、そのヒントを示してくれています。今後はこれらの先進事例を、自社のビジネスにどう落とし込むかが問われる時代になるはずです。この機会にAI活用について改めて考えてみてはいかがでしょうか。動画ではこのコラムでご紹介していないAI活用事例も取り上げていますので、参考にしていただけたら幸いです。




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竹内 雅則 Masanori Takeuchi

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