VINXニューリテール・コラム
【小売業のDXシリーズ】セルフレジが狙われている! 効果的な万引き対策とは

現在、流通小売業ではセルフレジが急速に普及してきています。そうしたなかで、今回はセルフレジが急速に広まってきている背景と、大きな課題となっている万引き対策についてご紹介したいと思います。
元動画:「セルフレジの万引き対策(小売業のDX29 )」の動画を見る
セルフレジ導入の背景と現在の普及状況
こちらのグラフは、人手が不足している部門についてスーパーマーケットにアンケートを取ったものです。最も人材が不足しているのが「レジ部門」であり、次いで「水産・鮮魚部門」や「総菜部門」などが上位となっており、多くの部門で人材不足に悩まされているのがわかります。
こうした状況の背景には、少子化や人件費の高騰などがあります。特に「レジ部門」は心理的な負担も大きいため、人材が集まりにくい状況が続いているようです。
人手不足が深刻化するなかで、スーパーマーケットでは人手をかけずに業務を回していくためにさまざまな生産性向上に向けた取り組みを進めています。上記のグラフを見るとわかるとおり、多くのスーパーマーケットが「セルフレジ、セミセルフレジの導入」や「自動発注システムの導入」を行っているようです。
ちなみにセルフレジとは、商品のバーコードをお客様自身がスキャンして会計を行うレジのこと。一方でセミセルフレジとは、商品のスキャニングはレジスタッフが担当し、会計だけをお客様がセルフで行うレジのことです。
スーパーマーケットにおけるセルフレジの普及率を見てみると、大手チェーン(51店舗以上)では、2019年には41.7%だったのが2024年には78.4%にまで高まっています。IT投資の予算を確保しやすい大手スーパーマーケットではセルフレジの活用が一般的になりつつあり、中小のスーパーマーケットでも今や大幅に導入が進んでいることがうかがえます。
万引き被害が大きな課題に
上の表では万引き被害の状況についての調査をまとめています。この結果を見ると、セルフレジの導入によって万引きが「増えた」という回答が25%にまでのぼっています。「(増加しているか)分からない」という回答が41.4%もあるため、実態を把握できていないものの実際には増えているお店も多いのではないかと推察されます。 また、売上高に占める不明ロス率※が0.7%あるなかで、万引きが約0.3%を占めているため、不明ロスの約40%が万引きによるものとなっています。そのため万引き対策が現在の店舗経営において非常に重要な課題になっていると言えます。
※理論上の在庫数と実際の在庫数の差
では、セルフレジでの万引きはどのように行われるのか。その具体的な例をご紹介します。
●レジ抜け
商品を一切スキャンせずにそのままセルフレジを通り抜ける。
●偽装スキャン
商品をスキャンしたふりをして、実際にはスキャンをせずにレジを通す。
●タグ切り
自動的に商品がスキャンされるセルフレジで、事前にタグを切ってしまう。
●ラベル貼り替え
商品のラベルをより安価な商品のものに貼り替える。
こうした万引きの手法は年々複雑化・多様化してきており、その対策が急務となっています。
セルフレジでの有効な万引き対策とは
セルフレジの万引き対策は、大きく2つにわけられます。ひとつは万引きが発生しないように未然に防止する方法。もうひとつが、例えば万引きGメンによる摘発のように、万引きを発見する方法です。
今後はAIによって万引きの行動を自動検知するようなソリューションも生まれてくるかもしれません。しかし、万引きを発見し、警察の立ち会いのもとで対応すると非常に大きな労力が必要になります。こうした対応は店舗運営において大きな負担になるため、未然に万引きを防止するのが最善の対策であると考えられます。
未然に万引きを防ぐ方法としては、セルフレジの上にカメラを付けて大きなモニターにスキャニングしている手元とお客様の顔を映し、万引きを牽制するようなソリューションの開発も進んでいます。
一方で、今回最もお伝えしたいのが、現在万引き対策として最も有効なのが「店員によるお声がけ=ホスピタリティ向上による万引き対策」であるということです。
上の対策は、香川大学の大久保智生先生が考案した「セルフレジ不正使用防止マニュアル」から抜粋したものです。
① セルフレジ会計エリアに出向く
まず大切なのは、店員がセルフレジのエリアでお客様の会計に立ち会うことです。セルフレジエリアには、アテンダントPCなどと呼ばれている端末があり、複数台のセルフレジの状況を確認できるようになっています。そのため、店員がずっとこのアテンダントPCを見ている店舗も多いのですが、ホスピタリティや万引き対策の観点から言えば、お客様がセルフレジのあるエリアに入ってきたら、アテンダントPCの前からお客様の近くへ移動することが重要です。
② すべてのお客様に挨拶
お客様の近くに移動したら、目を見て挨拶をします。そのような対応によって、お客様に親しみを感じていただけるとともに、「ちゃんと見ていますよ」と万引きを牽制する効果も期待できます。
③ 観察のアピール
お客様の視野に入る位置に立ち、会計の様子を近くで観察していることを伝えます。
④ お客様へのサポート
セルフレジでのお会計は、お客様によってはハードルの高いものです。現金やクレジットカード、QRコード支払いといった多様なお支払い方法があり、さまざまな操作が必要になります。様子を観察していてセルフレジに不慣れなお客様には「お手伝いしましょうか」と声をかけると、安心してご利用いただけます。また、積極的にお客様に声をかけることが、万引きの牽制にもつながります。
上記の①〜④のような対応によってセルフレジエリアでのホスピタリティを高めるのが、万引き防止対策としても大変有効です。セルフレジを運用する際にはぜひ参考にしてください。
おわりに
今回はセルフレジの普及によって増加している万引きへの対策についてご紹介しました。
万引きの抑止にもなり、お客様にも喜んでいただけるお店創りとなる「お声がけ」。
弊社でもAIなどの最新技術の応用によって万引きを抑止・検知するような研究も進めておりますが、セルフレジの万引き対策は一歩間違えば重大なお客様クレームとなりかねません。現時点で最も効果が期待できる対策がホスピタリティの向上ではないでしょうか。
弊社広報誌「コウリノミライ」第2号では、「万引き対策(保存版)」の特集を組んでいます。
今回のコラムでご紹介した内容を詳しく掲載しておりますので、ご入用の方は弊社担当までぜひお問い合わせください。
関連コラム「【小売業のDXシリーズ】成長か?停滞か?中国の最新小売事情」を読む
関連コラム「【小売業のDXシリーズ】世界の小売業を牽引!アメリカのスーパーマーケット」を読む
 