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【小売業のDXシリーズ】押さえておきたい!近代小売の始まりと変革
小売業のDXについて深く理解するために知っておきたいのが、近代小売の成り立ちです。そこで今回は、近代小売を知るうえでぜひ押さえておきたい4つのターニングポイントをご紹介します。
近代小売とは?
個人経営のお米屋さんや魚屋さんのような古くからある対面販売のお店を伝統小売と言います。それに対し、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどを近代小売と呼びます。小売業にどのような変革が起こり、近代小売が誕生したのか。その歴史をこれからご紹介していきます。
①チェーンストアの始まり
近代小売の始まりはチェーンストアからと言われています。紅茶やコーヒーを販売していたA&P(The Great Atlantic&Pacific Tea Company)という小売店が、1916年に「エコノミーストア」というローコストの店舗を開発したことが、近代小売の起源となったのです。
この写真を見てわかるとおり、A&Pの「エコノミーストア」は店内にカウンターがあり、そのなかにいる店員に声をかけて商品を購入する対面型の店舗です。ただし、お店の形態や運用を規格化して多店舗展開し、共同での仕入れによってコストを抑えることで低価格で商品を販売できました。店舗オペレーションの標準化、仕入れと販売の分離などを進め、運営の効率化やコストダウンを実現したのです。
「エコノミーストア」が誕生したのは1916年。当初は紅茶やコーヒーなどを販売しているだけでしたが、さまざまな食材に販売商品が拡大されていきました。そして、1930年には約1万5,000店まで店舗数が増えていたことからも、いかにA&Pがアメリカ国民に支持され、急成長したのかがわかります。
②セルフサービスの発明
次に、セルフサービスについてご紹介します。セルフサービスの起源となったのは、1916年に誕生したピグリー・ウィグリー(piggly wiggly)です。
この写真の通り、回転ゲートから入店して店内を一周し、入口とは別に設けられた出口から退店するという仕組みになっています。お客様は入口近くにある買い物カゴを手に取り、自分で棚から商品を選んでカゴに入れ、出口手前のレジで会計を済ませます。
このセルフサービス方式は、店舗スタッフの省力化のために開発されましたが、お客様が自分で手に取って商品を選べるシステムは、購買意欲を高める効果もありました。そのためピグリー・ウィグリーは大きな成功を収め、フランチャイズで多店舗展開を進めます。また、A&Pも追随してセルフサービスを採用するようになり、1920年代には北米全域でセルフサービスはよく知られるようになったそうです。
ピグリー・ウィグリーが開店した当初は、日持ちのする加工食品を中心に販売していましたが、次第に生鮮食品も販売するようになっていきました。そうした流れがスーパーマーケットの誕生につながっていくのです。
③スーパーマーケットの誕生
続いて、現代に生きるみなさんにとって非常に馴染みのあるスーパーマーケットについてご紹介します。スーパーマーケットを発明した人物はマイケル・J・カレン。ニューヨーク郊外でキング・カレン(King Kullen)というお店を開業しました。
広大な駐車場も備えた大型店舗でセルフサービスを採用し、生鮮食品も販売。店員による接客廃止や内装・外装の簡略化、商品を箱のまま陳列することなどによって、大幅な低価格化を実現しました。1937年にはショッピングカートが使われ始めたと言います。
開業当初は苦戦していたようですが、世界大恐慌の影響による消費者の低価格志向の高まりやモータリゼーションの発展により、キング・カレンは次第に大きな支持を集めていきます。その人気ぶりを見て、既存の他のチェーンストアもスーパーマーケットへと業態を変えていったそうです。
④販促施策の原点
最後に、販促の始まりについて触れたいと思います。販促施策の起源は、1891年にシュスターズ・デパート(The Schuster and Company Department Store)が始めたスタンプシールと言われています。
当時は、デパートでの商品購入は掛けで行い、代金は後日にまとめて支払うことも多かった時代です。しかし、シュスターズ・デパートとしては、現金で購入してもらえればキャッシュフローが良くなります。そのため、現金で買っていただいたお客様にスタンプシールを渡し、それが台紙いっぱいに貯まると景品と交換できる仕組みを始めました。
これはスタンプシール制度をPRする当時のポスターです。スタンプを貯めて無料で景品と交換した家族が、その景品を自慢している姿を描いています。
このスタンプシールが好評で、1896年には独立したスタンプ事業者が誕生します。この事業者が運営するスタンプブックの仕組みに多くの小売事業者が参加するようになり、1957年には参加企業が約200社にも及んだそうです。
こうした紙のスタンプによる販促施策が起源となり、その後ITが普及するにつれてポイントカードなどへ進化を遂げていきました。現在、さまざまなポイント事業者がシェア争いをしていますが、その原点がシュスターズ・デパートのスタンプシールにあるということを、ぜひ覚えておいてください。
アメリカの流通革命へ
こちらは、アメリカの近代小売の成り立ちをまとめた図です。やはり近代小売への変革を考えるうえでは、チェーンストアやセルフサービス、スーパーマーケットの誕生が大きなターニングポイントになっています。
そして、さらに物流網が発展して豊富な商品を販売できるようになったり、IT化が進んだりすることで現在のスーパーマーケットやコンビニエンスストアへと発展してきたのです。
おわりに
今回は、小売業が近代小売に変革を遂げていくターニングポイントをご紹介しました。今回取り上げたもの以後もさまざまな変革がありましたので、それらについては改めて解説したいと思います。
最後までご覧いただきありがとうございます。次回の【小売業のDXシリーズ】にもご期待いただけたら幸いです。
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