VINXニューリテール・コラム
【進化するお買い物体験!】ネットスーパーの現在地と課題

在宅勤務や時短志向の浸透、地方の交通インフラの衰退によって、今やネットスーパーは生活インフラのひとつとして定着しており、過疎化などの社会課題を解決する手段としても期待を寄せられています。
ヴィンクスでは、今後の日本社会においてネットスーパーが重要な役割を果たすと考え、その運営手法などについての研究を進めています。このコラムではネットスーパーに関する情報をご紹介するシリーズの初回として、ネットスーパーを取り巻く現在の状況や課題、そして課題解決のためのヒントについてご紹介したいと思います。
ネットスーパーの社会的役割と成長
ネットスーパーは、買い物のスタイルを大きく変えるサービスとして以前から注目されています。特にコロナ禍をきっかけに利用者が一気に増え、日本でも定着してきました。共働き世帯や育児中の家庭、高齢者のなかには、ネットスーパーが生活を送る上で不可欠なサービスとなっている方も多くなってきています。
また、災害時には自治体と連携して食料を届けるなど、地域のインフラとしての役割も担い始めています。日本では過疎化が進み、交通インフラの維持が難しくなっている地域も増えているなかで、今後はますますネットスーパーの果たす役割が大きくなっていくはずです。
そのように社会的役割が大きくなっているネットスーパーは、近年大きな成長を遂げています。ある調査によると、2023年のネットスーパーの市場規模は3,040億円に達しており、2025年には3,710億円にまで拡大すると予想されています。
ネットスーパーの特徴とは
従来から存在するECサイトと比較し、ネットスーパーには3つの特徴があると私たちは考えています。
●数時間で届く「スピード感」
ネットスーパーと聞いて多くの方がイメージするのは、“すぐ届くサービス”であるということではないでしょうか。例えば、朝に注文すれば昼過ぎに自宅に届く。そんなスピード感がネットスーパーの大きな魅力と言えます。このスピード感を実現しているのは、例えば以下のような仕組みです。
① 時間帯を細かく区分けし、注文を受け付け
② 注文が入るとただちに実店舗や専用拠点からスタッフが商品をピックアップ
③ 配送のルートや時間に合わせて準備を進める
忙しい日々を送る方々にとって、「必要なものをすぐに届けてもらえる」という安心感は、ECサイトなどにはないネットスーパーならではの価値となっています。
●温度管理による「高い鮮度・品質」
鮮度や品質へのこだわりも、ネットスーパーでは欠かすことができません。ピッキング時には冷蔵品、冷凍品、常温品をわけて管理し、保冷機能を備えた車両やボックスを使って配送するといった適切な温度管理がなされているため、「インターネットでも安心して生鮮食品を買える」という信頼感につながっています。
●地域に根ざした「地域密着性」
地域のリアル店舗の特売チラシと連携した価格設定を行ったり、地元の農産物や商品を取り扱ったりと、「地域のお店らしさ」を感じられるのもECサイトとは異なるネットスーパーの特徴です。この地域密着性によって“顔の見えるサービス”となり、ネットスーパーの魅力をさらに引き立てています。
これらの特徴を含めたネットスーパーの特色をまとめた表を掲載しますので、もう少し詳細を知りたい方はぜひご覧になってください。
- 当日配送と
リアル連動型運用 - ●実店舗や専用拠点連携。注文から数時間以内即日配送
●店舗在庫や人員を活かし、スピード感のある運用を実現 - 温度帯別の
商品・配送管理 - ●生鮮・冷蔵・冷凍などの商品特性に合わせて温度を管理
●品質保持・衛生対応のために、全行程で温度帯別管理を徹底 - 地域限定配送と
エリア最適化 - ●全国配送ではなく、対象エリアを限定した展開が基本
●地域ごとの配送効率や需要に応じ、柔軟にルートを設計 - 短時間サイクルの
運用体制 - ●注文から出荷・配送までのリードタイムを短縮
●スピードと正確さを両立し、効率的に運用 - 時間指定・定期配送
などに柔軟に対応 - ●時間帯指定や定期配送といった柔軟なサービスを提供
●利便性や安心感を高める仕組みが整っている
ネットスーパー特有の課題とその解決策
ネットスーパーの売上が伸びている一方で、スーパーマーケット事業者のなかでネットスーパーのサービスを導入している割合は20.7%にとどまっており、売上もスーパーマーケット全体のわずか1.5%に過ぎません。ネットスーパーの利便性は広く認知され始めているものの、実際の運用や利用にはさまざまな課題があり、期待されているほどの成長スピードに達していないとも言えます。
導入や利用が進まない大きな理由は、ネットスーパーの運用には想像以上の難しさや課題があるためです。
代表的なものとしては、リアルタイムでの在庫管理などが挙げられます。ネットスーパーとリアル店舗で共通の在庫を販売している場合、店頭の在庫数をリアルタイムで把握できていないと、ネットスーパーで注文を受けた商品が売り切れている場合があるのです。そうすると、注文したのに品物が届かないお客様は大きな不満を抱えることになり、クレームへと発展してしまいます。こうした事態を防止するには、在庫をネットスーパーにリアルタイムで反映するシステムが必要になります。
また、ネットスーパーのお客様単価が上がらず、人件費や配送コストで赤字になってしまったり、ネットスーパーとリアル店舗を同じスタッフで運営したために業務が煩雑化してサービスの質が低下したりと、ネットスーパーを始めたものの撤退に追い込まれた事例もあります。
これらの事例からもわかるように、ネットスーパーの運営にはリアルとデジタルの要素をうまく組み合わせる繊細なサービス設計が求められます。
下の表では、ネットスーパーから撤退した企業が直面した課題をまとめています。ネットスーパーの運営を始めるにあたっては、こうした課題を事前に知っておくことが重要でしょう。
- 採算確保
- ●配送にかかる人件費やコストが高く、利益を出しにくい
●特に送料の価格調整が難しい - 店舗オペレーション
との両立 - ●ネット注文の対応が、店舗スタッフにとって大きな負担に
●負担が増えると、サービスの質や働く人の満足度が低下 - 競合との差別化
- ●価格や配送スピードで大手と競争するのは難しい
●自社の強みが見えにくく、お客様に選ばれる理由を伝えにくい - 需要の変化への対応
- ●突然の注文増加や社会的な変化へのスムーズな対応が難しい
●配送の遅れや欠品が起きやすく、バックアップ体制を整えにくい - デジタル面や
人材面の基盤整備 - ●システムの整備が十分でないと、業務に無理やムラが生じる
●環境とITの連携が不十分だと、改善のサイクルも不十分に
さまざまな課題に対応するには、店舗オペレーションの見直しやシステム面の強化、お客様との関係性を深める工夫など、多角的な取り組みが必要です。最近ではAIや自動化といった先進技術の活用やアプリを使った購買体験の充実化、地域の特性を活かした商品開発が大きな成果を上げています。
また、月額制サービスの導入による収益の安定化や、MFC(小型倉庫)の活用による効率化を実現した事例もあります。これらの成功事例に共通しているのは、「地域密着」「スピード対応」「デジタルの活用」「顧客との接点強化」というネットスーパーには欠かせない視点を重視し、課題解決に取り組んでいることです。
最後に、そうした重要なポイントを押さえた成功事例の詳細をご紹介します。ぜひネットスーパー運営のヒントにしていただけたらと思います。
- 採算確保
-
●月額制のサブスク会員サービスによる収益の安定化
事例配送無料や特典付きの有料会員制度を導入し、継続的な利用に繋げた企業も
●まとめ買いや定期便によって注文単価の底上げ
事例まとめ買いの割引や定期配送の仕組みで、自然と利用頻度が高まったケースも
●リピーター向けの得点設計によるファンづくり - 店舗オペレーション
との両立 -
●MFC(小型自動倉庫)を活用した業務の分担と効率化
事例店舗業務とEC業務を切り分け、業務負担の軽減と作業時間の短縮を実現
●ピッキング専任スタッフの配置による現場サポート
●業務の流れやシフト体制の見直しによる運営のスムーズ化 - 競合との差別化
-
●地域ならではの商品や旬の食材を取り入れた売り場づくり
事例地元野菜や限定商品の取り扱いで、「このお店で買いたい」と思わせる工夫が効果的だった例も
●即配・置き配など多様な受け取り方法の展開
●アプリでのレシピ提案やポイント連携による買い物体験の向上
事例レシピ提案や買い回りのしやすさを高めたことで、アプリからの購入が増加 - 需要の変化への対応
-
●AIを使った需要予測と注文調整による安定供給
事例繁忙期でも在庫切れや遅配を抑える仕組みを構築し、顧客満足度を維持
●混み具合に応じて外部の配送リソースを活用
●在庫情報をリアルタイムで連携しスムーズな受注対応を実現 - デジタル面や
人材面の基盤整備 -
●ネットスーパー専用のシステム導入によって業務を効率化
●ECに特化した専門チームの立ち上げによる全体最適化
事例部門をまたいだチームで連携し、課題への対応力を向上
●現場スタッフ向けのデジタル研修によるスキルアップ支援
おわりに
今回は、ネットスーパーに関する現在の状況をご紹介しました。社会課題の解決に向けて重要な役割を果たす存在であるため、私たちは今後もネットスーパーに関する情報などをお伝えしていく予定です。今後のコラムをご期待いただけたらと思います。
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